アン・バラシテクニック

アン・バラシテクニック


 「せっかく掛けたサクラマスをバラしてしまった。」この釣りにおいてはよく聞く
話だ。年間1本獲ればいいという釣りだけに、掛かった魚を獲れるか獲れないかでは
天と地の差である。場合によっては、その人の生活リズムを狂わし、もっと言うなら
ば、仕事にも影響する程の一大事となることもある。平均的にサクラマスはヒットさ
せても、獲れる確率は50%くらいではと言われている。しかしこれは全体の平均で
あって、釣り人の個人差によって、かなりのバラツキがあるのではと思っている。言
うならば「よくバラス人」、「めったにバラさない人」に分かれる。今回は私の経験
から、サクラをバラさないためのテクニックについて、持論を述べさせてもらう。
   

【前提条件】
 この持論を述べる前に前提条件を確認したい。初心者に多い強引なやり取りでのラ
インブレイクや自分の実力以上に細いラインを使ってのラインブレイク、システムを
組んでいないがためのブレイク、ラインを定期的に交換していないがための磨耗によ
るラインブレイクなどは、この章では論外としている。また市販ルアーのフック
(※1)をそのまま用しているがための掛かりが浅いバラシ、フックを定期的に交換
または研磨していないがためのバラシなども同様に論外とさせてもらう。ここでは
「全てが完璧だったのに、なぜバレた!」という一歩踏み込んだレベルで書かせても
らう。
 ※1—近年のルアーでは、市販標準で掛かりのいいフックを使用しているルアーも
ある。

【魚は絶対に水面に出すな】
 2005年の米代解禁日に幸運にも9本のサクラマスを獲ることができた。しかし
ヒットの本数は12本であった。要するに3本もバラしたのである。1日で9本獲っ
たのも記録であるが、1日で3本のバラシもまたワースト記録である。釣行後なぜ3
本もバラしたのかを自分なりに考えてみた。「確率だよ」と言ってしまえばそうかも
しれないが、しかし獲れる時と獲れない時があるのは、なにかしら原因があるはずだ
そしてその原因について考えてみた。 
 その結果、全てに共通項目があった。それはバラした瞬間、何れも水面に顔を出し
て暴れた時にフックアウトしているという点だ。3本中、2本は遠投直後のカウント
ダウンでのバイト。ロッドを大きくアワセて乗ったことを確認し、「ヒット!」と思
った次の瞬間、遥か彼方で魚がジャンプ、からだが全て見えるほどの首振りをした瞬
間、スーッと軽くなってしまった。もう1本は、まだ薄暗い時であった。魚を掛けた
後、やり取りをしながらかなり近くまで寄せてきたと思う。しかし辺りが薄暗かった
ため、実際どこまで魚が寄ってきているのかわからなかった。さらに下流に釣り人が
居たため、からむとマズイと思い。一度大きくロッドを立てて魚の位置を確認してみ
た。その次の瞬間、私の下流10mくらいのところで、魚が水面に出てきた。そして
バシャバシャと暴れた瞬間にフックアウトしてしまった。これらの状況から、3本の
バラシは全て魚が水面に出て暴れた時にフックアウトしている。これの現象は今回に
限らず、今までの経験でも同様なケースが何度かある。
 このフックアウト原因としては、魚が水中で暴れる時と水面に出て暴れる時とでは、
魚にかかる水の抵抗が変わってくるために首振りの速度が上がりルアーが外れやすく
なる。また、ルアーにも重力(自重)がかかってくるため。自重と首振りの反発でフ
ックアウトし易いのではと私は考える(他にも思うところはあるが、中々文書では
表現が難しい)。
 私の場合は、この対策のため常に水面下で魚とのやり取りを行なうように心がけて
いる。そしてランディング体制に入るまで、一度も水面に魚を出さないようにコント
ロールしている。極論すると『ヒットからランディングまで、周囲の人に気づかれな
いように、ネットインさせること』でもある。

    

【ロッドは絶対に立てるな】
 水面に魚を出さないためにはどうするか?もともと渓流のルアーマンだった私は、
学生の頃から渓流でイワナやヤマメを狙っていた。さほど川幅のない渓流の流れの中
で、ルアーを浮かせないためには、ロッドをどう操作するか。それは、岩や流れの回
避以外では自然とロッドの先端は、腰の位置より低い位置に下げて操作する。この動
作は、ヒット後も同じで、なるべく魚とのやり取りは水中で行なうようにする。水面
に出すと、暴れて途端流れに押されて、更に暴れてバレることが多かったからだ。た
だ1匹の貴重価値はサクラと比べ物にならないため、バレることなどそんなに気にも
していなかったが。。。この癖から、サクラマスを掛けた後のロッド操作も自然とロ
ッドを下げて、魚が水面に出ないようにしている。中流の押しの強い中で掛けた場合
は、腕ごとロッドを水中に突っ込んで、やり取りすることも多々ある。特にビッグレ
インボーを獲る時は、からだ全体を水面まで折り、とにかくロッドを下げてジャンプ
を阻止する。これらの技は特に教えられたわけでもなく、長年の渓流でのルアー釣り
の経験から自然と出るようになっていた。

【からだ全身のバネを使う】
 赤川で釣りをしていると対岸の様子がよく見える。ヒットした場面なども多々目撃
することがあるが、ヒット後のその人のロッドワークとランディングを見ているだけ
で、バラス・バラさないがわかってしまう。ロッドを高々と上げて魚を水面でバシャ
バシャやっている人は、大抵バラシが多い。逆にロッドを立てずに膝と腕を折ってタ
メを作り、魚の動きに対応して、からだ全体で上下前後に魚のパワーをいなしている
人は、ほとんど上手くキャッチできているようだ。サクラマスのパワーを吸収するた
めには、ロッド自身の持つベンディングとリールのドラグ性能で対応することが可能
である。しかしそれプラスからだ全身でのバネの対応が必要だと思っている。私の場
合、ヒットからランディングに至るまで、何度もドラグの調整をして魚のパワーを殺
しているが、近くに寄ってからのサクラマスの突然のターボに走りに対しては、タッ
クルだけでは対応できない(時間的に間に合わない)場合がある。その時はからだ全
体をバネとすることにより、サクラターボの走りに対応することができる。

【ルアーはベリーを食わせろ】
 ミノーでサクラマスを獲ったときに確認することがある。それは、どっちのフック
に食っているかだ。一般的にテールは追い食い、ベリーは反転食いと言われている。
テールの場合は、口の前の方で食っている場合が多い。サクラマスのこの部分は全体
的に硬く、中々フックが貫通しない。運良く下の歯の付け根の柔らかい部分に掛かっ
た場合はいいが、そこ以外は硬くてしっかりアワセを入れないと貫通しない。それに
比べてベリーを食った場合は、口の横の下アゴの付け根部分にトリプルフックが2~
3本掛かる場合が多い。
どちらがバレないかと言うとやはり後者であろう。ではどうやったらベリーを食わせ
られるのか。これは釣り方によって釣り人がある程度コントロールできる。キャステ
ィング後U字を描き、ヒットポイントでルアーが反転動作に移るように流れを読み、
ルアーをコントロールしてやる。U字で出るサクラは腹を狙ってアタックしてくる。
この場合ベリーにかかりやすい。これがダウンクロスにキャストし逆引きしている時
間が長い場合は、追い食いするケースが多く、そのままテールのフックを食う場合が
多い。この場合、硬い口の部分にギリギリ掛かっている確率が高く、バレる可能性が
高い。従って私のスタイルとしては、ヒットポイントでU字を描き、サクラに腹を食
わせるようにコンとロールする釣り方を基本としている。但し、中流域ではキャステ
ィング位置やポイントの地理的条件などでダウンでキャスティングをしなければなら
ない場合も多々ある。またその日の活性の状況などから、ダウンクロスでの見せる釣
りが有効な時があるため、必ずしもそれにこだわるものでもない。 

【連続アクションに食わせるタイミングを入れろ】
 中々口を使ってくれないサクラマスの興味を引くために、ロッドアクションがある。
トィッチングやシェーキング、そしてジャークなど人により違う。何れのアクション
もサクラの興味を引き付けてバイトを誘う手法であるが、常にヒラを打って動いてい
るルアーと止っているルアーでは、どちらがしっかりフッキングするだろうか。これ
も確率の問題だろうが、少しでも動きが一定の方が、食い外れの確率は低くなるだろ
う。これを考えるとあまり激しいアクションは返ってフッキングの確率が悪くなり、
口意外の部分にスレで掛かる場合が多く、これもバラシの原因となる。

 私の場合、この対策としてサクラがバイトすると思われるタイミングにロッドアク
ションを止めて食わせるタイミングを入れている。例えばトィッチングでもキャステ
ィング後から回収まで連続的にトィッチングをするわけではなく、アクションの合間
にストレートリーリングを入れる。そしてそこでバイトさせるようにコントロールす
る。ではどうやったらバイトするタイミングがわかるのか?。キャスティングをする
場合、魚が付いているポイントに最高の条件でミノーを送り込むようにコントロール
すると思うが、そのポイントに差し掛かってミノーが姿勢を変える前から、逆引きに
移るまでの間が一番バイトの確率が高い。その間は極力アクションを最小限にする。
これにより、U字で腹をしっかりと食わせることができる。
 しかし文章に書くとこうだが、実際は経験と感、またはセンスによる割合も多きい
いことを付け加えておく。

    

【ランディングの際は、サクラを眠らせろ!】
 皆さんはヘラブナ釣りの経験はあるだろうか。私は中学、高校とかなりヘラブナ釣
りにハマッタ時期があった。休みともなると市内の原崎沼や寺津沼に通ったもんだ。
ヘラブナはタモ網ですくう際に、眠ったようにおとなしくなる。そしてそのまま横に
なりながら、スーッとタモ網に入れることができる。実はサクラマスも同じである。
私がサクラマスをネットインする時は、ヘラブナ同様におとなくしなり、まるで眠っ
たように横になりながら滑り込んでくる。よってランディングの際のバラシは、ほと
んど無い。ネットイン後は、我に返ったかのように再び暴れるんで大変だが。。。

 ではどうやってサクラマスにこの催眠術を使うか。。。
基本はヘラブナ釣りと同じであるが、サクラの場合、この術を使うタイミングが難し
い。元気な状態で催眠術を使っても効果は無く、逆に水面で暴れられてしまう。寄せ
てから2~3度ターボの走りをさせた後にこの術を使うと非常に効果的である。

【パワー勝負はスティ】
 上記までは魚をうまくコントロールして、如何にいいタイミングでサクラを獲るか
を書いてきた。が、これはあくまで私の理想とする方法である。しかしヒット条件や
ポイント次第では、サクラマスと1対1のパワー勝負をしなければならないときもあ
る。サクラはヒット後、首振り・ローリングを繰り返す。そこに流れの力が加わって
流れの大きな抵抗となりラインは出て行く。ラインを出せる余裕がある場合、自分が
移動可能な場合はいいが、例えば堰堤上や落ち込み上で掛けた時、テトラの上で掛け
てもう1歩も移動できない場合、中流で急流や深みなどでこれ以上下れない場合など。
その場合はどうするか・・・。
最後の手段はパワー勝負である。ドラグを締め、更にスプールを指で固定する。この
時、2~3kg程のサクラマスの重さを耐えなければならない。ロッドのパワーと腕力
が必要となる。

<想像してみてください;あなたのロッドの先のラインに1kgのロック氷の袋を3袋
付けて流れの中に入れてみてください。流速と抵抗が加わるため、その重さはかなり
でしょう。柔なロッドでは耐え切れないし、腕力がなければこの状態を持続できない
でしょう>

 しかし、このブロックで耐える時間はそう長くは必要ない。なぜならば、ある程度
首振り・ローリングしたサクラは、その後呼吸を整えるために、自分で真っ直ぐ泳ぐ
ようになる。従って時間にして約10秒から長くて30秒、とにかくパワー勝負でそ
の場所で耐えることだ。不用意に追っかけて下ったり、ラインを出さないようにして
サクラマスに主導権を取られない様にする。そしてサクラが自分泳ぎ出したら、その
時にロッドワークとポンピングで比較的簡単に引き寄せることができる。ただこの時
逆にサクラの方から上流に突進してくることがあるため、糸ふけに注意が必要である。
一瞬バラシた!?と勘違いする時がある。

【最後に】                
 本章は、あまり雑誌やテレビ等のメディアでも書かれていない内容である。いわば
私の経験から書いた持論である。中々文章だけでは表現が難しく、理解できないとこ
ろ多々あると思うが、内容については是非釣り談義のただき台としてもらいたい。ア
ドバイスや意見なども頂けるとありがたいと思っている。
 最後に、私はバラシはその人の技術次第である程度回避できると思っている。
「たかがサクラを獲るのに、こんなことしなくても獲れるよ!」と言う人もいるかも
しれない。確かに獲れる時もあるだろう。しかしここで言いたいのは、その獲る確率
を上げるためにはどうしらいいかという点である。「サクラマス釣りというのは、確
率ゲームだからだ」。
そして、サクラマス釣りではあまり腕の差と言うのはあって無いようなものだと思っ
ているが、強いて言うならば「よくバラス人」「めったにバラさない人」が腕の差と
言えるのではないだろうか。さてあなたはどちら?。

掛けたら絶対に獲る!

【参考データ】 
アン・バラシ率(ゲット率)実績
  2004年 私 84.6%(サクラマス釣果11本、ヒット/13本)
        妻 100 %(サクラマス釣果 2本、ヒット/ 2本)
  2005年 私 76.5%(サクラマス釣果13本、ヒット/17本)
        妻 75.0%(サクラマス釣果 3本、ヒット/ 4本)

生涯ラインブレイク回数 
        私 3回
        妻 0回